所詮一人の人間が書くものなのだから、言葉の出てくる穴はひとつでいいのだと思う。
と前回書いたことに続けると、ひとつの穴から出てくる言葉だけで小説を書くということは、出てきた言葉をあとから操作しないということだ。二つ以上の穴を自分(水で膨らませた風船のようなイメージ)にあけると、その複数の穴から出てきたものを着地する前に操作しないといけないというか、操作できてしまう。作業がひとつ多くなるし、穴から搾り出すことが素材の提供であり、それらを操作・編集することが本当の作業のように思えてくる。
私は小説を書くことを、穴から何かを搾り出し続けるというただひとつの行為にとどめておきたい。私によけいな操作する隙を与えないようにしたい。べつの穴をあけるのは、今使っている穴が完全に枯れて何も出なくなったときだ。そのときは新しい穴が今までの穴を引き継ぐただひとつの穴となる。それはべつにひとつの小説を書いている最中にあってもかまわない引継ぎだ。言葉の出てくる穴はひとつのままなのだから。