プロ野球選手のようなスイングをするには、プロ野球選手みたいな体が必要だろう。プロ野球選手のバットの動きを本物よりずっと遅くそっくりになぞっても物まね芸以上の意味はなく、バットが本物のようにボールをはじき返すことはない。
ところが小説は、はじき返すべきボールがあるわけではないので、「本物」が五分間で書く文章を五日かけて書いてもその違いはいちおう文章を読んだだけじゃわからない。だったら五日かけて書くことで「本物」のふりをし通そうじゃないかというのがしばしば揺らいでばかりいるが現在の私のとるべき態度だと思う。小説はどう書いてもいいのであり、十枚を書くのに一年かかってもいいのである。そのことに絶望さえしなければそれは一年後には書けてしまうのだ。