STの応募はいちおう無い方向で。掌編連作というのはやっぱりどうもいまいちよくわからない。超短編というか一千一秒物語みたいなのだったらありうると思うが、そういうのを「小説」として書いている自分を不安にならない自信がない。私はとにかく小説を書くことに関して自信がなさ過ぎるので、足場がくずれないと信じて立っていられる場所はきわめて少ないのだ。
ある長さの中で徐々に定着していくもの、のほうを今は信用したい気分なので、とはいえ長編ではなくやはり短編だけど、三十枚なり五十枚の中で何かが定着したところで終わる、という感じがつかみたいように思う。そして冒頭に戻り、その定着したものを手がかりにもう一度読めるような。
残雪を読み返していて、残雪を読むことは残雪が書いているように読むことだと思う。もちろん書くことと読むことは違うが、残雪の小説には客席のようなものがないので、書いている手元を覗き込むようにする以外にベストの読書位置みたいなものがない。客席から立ち上がって手元を覗き込みにいくのではなく、最初からどこで読んでいいのかわからずうろうろしながら少しずつ手元の見えるところへ近づいていく感じ。だから読み返すたびおもしろくなるし、ほかの「読み返すほど面白い」小説が何らかの魅力をそれでも(読者に既知のものになることで)いくらか減らすようなところが残雪にはまったくといっていいほどないと思う。それは書くことと読むことがかぎりなく接近しているせいではなかろうか。